パニック障害の薬
パニック障害では向精神薬という薬を使います。脳や神経に直接働きかけ、症状を改善させます。
パニック障害は、現在のところ、脳の青斑核(せいはんかく)の誤作動が原因とみられています。この誤作動が神経の興奮を招きパニック発作を起こします。誤作動の原因はよくわかっていませんが、パニック障害の薬はこの誤作動が起こらないように作用します。
薬を飲むことで神経の興奮が治まります。そして、服用を続けることで、安静状態を保つことができます。神経は興奮を繰り返すほど、興奮しやすくなります。ですから、投薬を続けて興奮しないようにすることが発作の一番の予防にもなります。
薬には副作用がつきものですが、SSRIや三環系抗うつ薬といった習慣性が少ない薬もあります。まったく副作用のない薬はありませんが、医師とよく相談しながら使用しましょう。また、自分で治ったと判断して、勝手に薬を中断したり量を減らしたりしないようにしましょう。
薬による治療の進め方
急性期
治療を始めてから、1〜3ヶ月の急性期では、症状を消すことを優先します。耐えられる限度まで薬を増量し、症状の消退を狙います。
継続期
治療を始めてから、2〜6ヶ月の継続期では、パニック発作を抑えるとともに、主に広場恐怖に対しての効果を狙います。効果が最大になり、かつ副作用が最小になるよう量を調整します。
維持期
治療を始めてから、3〜12ヶ月の症状が落ち着きをみせる維持期では、改善を続けるとともに、生活状態の回復を狙います。医師と相談しながら、薬の減量をしていきます。
中止期
治療を初めてから、8〜12ヶ月の症状が改善してくる薬物の中止期では、薬なしで症状が出ないようにすることを狙います。薬をゆっくりと時間をかけて減量していきます。
発作が治まってもしばらくは不安が現れることもあります。しかし、これは時間とともに薄れていくものです。できるだけ気楽に考え、いつまでも囚われないようにしましょう。
妊娠と薬について
妊娠中の方や妊娠を望む方にとっては、パニック障害の薬物治療は慎重に行う必要があります。
特にベンゾジアゼピン系薬物は奇形発生の恐れがあるため、使用は中止されます。
しかし、他の薬については、服用しないことによりパニック障害の症状が悪化して、うつ病を招いたり、食欲低下による未熟児が生まれたりする危険性はあります。いずれにせよ精神科医、産婦人科医、夫と相談のもと慎重に進める必要があります。
パニック障害で使われる薬
パニック障害で使われる薬を紹介します。
分類 | 一般名 | 商品名 |
---|---|---|
SSRI | フルボキサミン | ルボックス、デプロメール |
パロキセチン | パキシル | |
セルトラリン | ジェイゾロフト | |
三環系抗うつ薬 | イミプラミン | トフラニール |
クロミプラミン | アナフラニール | |
ベンゾジアゼピン系薬物 | アルプラゾラム | コンスタン、ソラナックス |
ロラゼパム | ワイパックス | |
SNRI | ミルナシプラン | トレドミン |
デュロキセチン | サインバルタ | |
β遮断薬 | プロプラノロール | インデラル |
カルテオロール | ミケラン |
パニック障害の薬「SSRI」
SSRIはパニック障害で最初に用いられることの多い薬です。
作用
セロトニンという脳内の神経伝達物質に働き、パニック発作や予期不安を抑えます。パニック障害の患者はセロトニンに関係する神経が不調を起こしていることが知られています。SSRIはセロトニンを増やし、不調を改善するとされています。
副作用
食欲不振や吐き気といった副作用が見られることもありますが、他の薬に比べて副作用が少ない薬です。
神経伝達物質のアセチルコリンの働きを抑制すると、便秘や口の渇きなどの症状が現れます。SSRIはセロトニンだけに作用し、アセチルコリンに影響を与えないので、抗コリン作用による副作用が少ないのが特徴的です。
パニック障害の薬「三環系抗うつ薬」
三環系抗うつ薬は、うつ病の治療に使われる薬ですが、パニック障害でもよく使われます。SSRIが登場するまではこの薬がパニック障害の薬でした。
作用
パニック障害には脳内の神経伝達物質セロトニンとノルアドレナリンが大きく関わっています。三環系抗うつ薬はセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻み、その量を増やすことで、パニック障害の症状を抑えます。
副作用
アセチルコリンの働きを阻害してしまうため、抗コリン作用が生じやすいというマイナス面があります。そのため、眠気や便秘、排尿障害といった副作用が出ることがあります。
パニック障害の薬「ベンゾジアゼピン系薬物」
ベンゾジアゼピン系薬物は、パニック障害の急性期に頓服薬として使われます。頓服薬とは使う時間が決まっておらず、必要なときに使う薬です。短期間で効果が現れるため、SSRIや三環系抗うつ薬が効いてくるまでの間に使ったり、発作時に服用するといった使い方をします。ベンゾジアゼピン系薬物は一般的に精神安定剤と呼ばれているもので、うつ病や不安障害などにも用いられています。
作用
脳の興奮を鎮めるGABA(ギャバ)という神経伝達物質の働きを高め、不安や恐怖を抑える効果があります。
副作用
安全性が高いことが確認されています。しかし、決められた分量より多く飲んでしまうと、呼吸抑制、息苦しさ、胸苦しさといった症状が現れます。また、勝手に服用を中止すると、不安感が増すといったことがあるため注意が必要です。
パニック障害の薬「SNRI」
パニック障害ではSSRIや三環系抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系薬物が一般的に使われますが、状況によってはSNRIが使われることがあります。
作用
SNRIはセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬とも呼ばれています。SSRIがセロトニンだけに作用するのに対して、SNRIはセロトニンとノルアドレナリンの両方に作用します。
副作用
抗コリン作用による副作用が少なく、依存性も少ないです。
パニック障害の薬「β遮断薬」
β遮断薬も、SNRIと同じく、状況によってはパニック障害に使われることのある薬です。
作用
交感神経に作用して、不安や動悸を抑える効果があります。パニック発作を抑えるというよりは、動悸を軽減する薬です。
副作用
低血圧や倦怠感などの副作用が現れることもあります。
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